Q3 「カカオポリフェノール」はどのようなものですか?

A

カカオポリフェノールは、チョコレート・ココアの原料であるカカオ豆に含まれるポリフェノールの事です。
カカオポリフェノールは、主に、エピカテキン、カテキンとプロシアニジン(エピカテキンやカテキンがいくつか結合した化合物)からなります。簡単に言いますと、エピカテキンをメインとするいくつかの化合物の混合物です。これらはフラバノール(フラバン-3-オール)とも呼ばれます。

Polyphenol

ポリフェノール(Polyphenol)は、右図に示すように、ベンゼン環(亀の甲)に数個以上のフェノール性水酸基(-OH基)を持つ化合物の総称です。植物体の光合成でつくられる色素・苦味・渋みなどの成分で、自然界には大変多く存在します。

Flavonoid

このポリフェノールの水酸基は、容易に自身が酸化されるため、疾病や老化の原因となる活性酸素種を捕えて消去する活性酸素消去能があります。
抗酸化性とは、この活性酸素消去能のことで、様々な疾病を予防防する力が期待されます。
カカオに含まれるポリフェノールの中で最も量が多いのはフラボノイド(Flavonoid)で、強い抗酸化力をもったものが多く、右図のような基本骨格をもっています。

フラボノイドの基礎骨格となるフラバンの構造式

このフラボノイドの中の、フラバノール(Flavanol)に分類されるエピカテキン(Epicatechin)、カテキン(Catechin)と、それらがいくつか結合したプロシアニジン(Procyanidin)類が、カカオポリフェノールに含まれる化合物です。フラバノールは別名フラバン-3-オール(Flavan-3-ol)とも呼ばれます。

Flavan-3-ol
Flavan-3-ols画分組成の一例 [1]
Component Content(%)
Polyphenol 72.4
(+)-Catechin 4.56
(-)-Epicatechin 6.43
Procyanidin B2 3.54
Procyanidin B5 0.85
Procyanidin C1 2.36
CinnamtanninA2 1.45
(-)-Epicatechin
(+)-Catechin
Procyanidin B2(2量体)
Procyanidin C1(3量体)

上に、実験で使用されたFlavan-3-ols画分組成の例を示します。カカオポリフェノールはカカオの他の成分である食物繊維、ミネラル、メチルキサンチンなどと共存しており、カカオポリフェノールだけを単離するのは大変難しいと言えます。
最も量の多いエピカテキンは、比較的体内への吸収率が良く、心血管系疾患を中心とした生活習慣病やその他多くの疾患に効果があると言われています。このエピカテキンは他の食品や飲料にも含まれていますが、チョコレート・ココアに含まれる量は最も多い部類に属します。Leeら(2003)[2]はカカオから作られるココアは紅茶、緑茶、赤ワインと比べて、フェノール類(没食子酸当量)の含量(Folin-Ciocalteu法で測定)が多く、1杯あたりの抗酸化能力を比べると、ココア飲料は、紅茶の4~5倍、緑茶の2~3倍、赤ワインの2倍程度と報告されています。又、エピカテキンが複数個結合したポリフェノール(プロシアニジンと呼ばれる)が多いのも特徴です。
ココア、チョコレート製品のエピカテキン、プロシアニジンの含量については、幾つかの報告があり、Hatanoら(2002)[3]は、カカオリカーからプロアントシアニジン グリコシド及び関連するポリフェノールをとりだし、それらの抗酸化性を調べました。GUら(2006)[4]は、プロシアニジン含量は無脂固形ココア含量と相関性があり、ナチュラルパウダーは最も高い抗酸化能とプロシアニジン含量であったと報告しています。
また、Miller ら(2008)[5]は、ココアの製造におけるアルカリゼーションの違いによるフラバノール量の違いを調べ、アルカリゼーションにより大きくフラバノール量が減少したと報告しています。
さらにOrtegaら(2008)[6]は、カカオ製造プロセスで生じる、豆、カカオニブ、カカオマス、ココアパウダーのフェノール性化合物量の変化を調べ、カカオニブの抽出される量が多く、かつ多様なフェノール性化合物含量と高い抗酸化活性を示したと報告しています。
Chinら(2013)[7]は、カカオ製造プロセスによるフラバノール量の違いを調べています。発酵/未発酵カカオ豆の差異およびローストや粉砕などによるポリフェノール含量の変化を測定し、未発酵/発酵カカオ豆を比較すると、未発酵豆の方が抗酸化能力とフラバノール含有量が顕著に高く、約2倍あると報告しています。Albertiniら(2015)[8]は、カカオポリフェノール含量におけるカカオ豆発酵・乾燥の効果について報告しています。
カカオポリフェノールの代謝や吸収について、まだまだ不明な部分もありますが、現在までの知見を述べます。
D’Archivio(2010)[9のFig.2]は、ポリフェノールの生物学的利用能の中で、人のポリフェノールの吸収を模式的に示し、ポリフェノールは吸収の間に広く代謝される、すなわち、グリコシドは小腸か大腸で加水分解され、遊離したアグリコンが吸収されるとしています。また、血流に入る前に、ポリフェノールは、主に肝臓で、代謝プロセスにより修飾(抱合体化・メチル化)を受けます。Osakabe(2013)[10のFig.5]は、カカオポリフェノールのそれまでの報告を総括し、経口投与したものが血圧降下作用、血糖低下作用、脂質代謝異常を表す道筋を模式的に示しました。又、Serraら(2013)[11]は、動物実験で、カカオクリームを摂取させた時のカカオポリフェノール類の代謝物の体内分布も調べており、血中だけではなく腎臓や心臓などの臓器にも代謝物が検出されています。加えて、Rice-Evansらのグループは、ココアを10日間摂取させた際、脳内にエピカテキンの代謝物の存在を明らかにしています[12]。Stoupiら(2010)[13]は、ヒト糞便の微生物叢によるエピカテキンとプロシアンジンB2の代謝について静的in vitro培養モデル( a static in vitro culture model )で比較し、それぞれが分解されて、フェニル基のついた脂肪酸類ができるとしました。Martinら(2012)[14]は、チョコレートの好みは、チョコレート摂取に対する異なる代謝応答をもたらすと報告しています。
Cardonaら(2013)[15]は、腸内微生物叢および人間の健康における意味合いについてのポリフェノールの利点について概説しています。
2014年3月、ACS(Dallas)で、ルイジアナ州立大学のMooreらは、ダークチョコレート(いくつかの抗酸化物質と少量の食物繊維を含む)を食べると、共に胃では消化吸収されにくいが、大腸に行くと善玉菌によって分解されること。さらに人間の糞便菌を使い、これらの非消化性物質に嫌気性発酵を行うと、食物繊維の一部は発酵され分解されることが報告されています。また、それ以外のプロシアニジン類などは、高重合体の一部が代謝されて小さな分子になり、容易に吸収され、抗炎症性活性を示すと報告もあります[16]。さらにFinelyはプレバイオティクスとココアの繊維を混合すると、胃の中にあるポリフェノールを抗炎症化合物に変え健康改善に役立つだろうと述べています。同年、ASN(アメリカ栄養学会)のシンポジウムで、Blumbergら[17]は、カカオフラバノールの科学を概説しています。
Cifuentes-Gomezら(2015)[18]は、フラバノール代謝物が血管系における生理的な効果の仲立ちをしているようであるが、それらのレベルは、フードマトリックス、加工、摂取量、年齢、性、遺伝子多型など夥しいファクターによって影響されると報告しました。Ottavianiら(2016)[19]は、放射性同位元素を用いて評価した結果、エピカテキンはそのままの状態や代謝物となって、あるいは腸内細菌で分解されるなどして約82 %が吸収されることが報告されています。また、プロシアニジン類については、3量体までは、そのまま腸管より吸収されるとの報告があるが、重合度が大きい成分については、血中では確認されていません。Stratら(2016)[20]は、カカオフラバノールがメタボリックシンドロームやそれに関連する疾病を改善するメカニズムについて、最近の話題を概説しています。
なお、ポリフェノールが有する多くの機能性についてはQ10.で詳しく解説しています。

チョコレート・ココア国際栄養シンポジウムでの関連発表

引用文献

  1. [1]越坂部奈緒美 浦上財団研究報告Vol. 20(2013) p65
    ポリフェノール類の求心性知覚神経を介したメタボリックシンドローム予防作用の解明
  2. [2]KW. Lee et al. J Agric. Food Chem. 2003, 51: 7292-7295
    Cocoa has more phenolic phytochemicals and a higher antioxidant capacity than teas and red wine
  3. [3]T. Hatano et al. Phytochemistry. 2002, 59(7): 749-58.
    Proanthocyanid inglycosides and related polyphenols from cacao liquor and their antioxidant effects.
  4. [4]L. GU et al. J Agric. Food Chem. 2006, 54: 4057-4061
    Procyanidin and Catechin Contents and Antioxidant Capacity of Cocoa and Chocolate Products
  5. [5]KB. Miller et al. J. Agric. Food Chem. 2008, 56: 8527-8533
    Impact of Alkalization on the Antioxidant and Flavanol content of Commercial Cocoa powders
  6. [6]N. Ortega et al. J. Agric. Food Chem. 2008, 56(20): 9621-9627
    Obtention and Characterization of Phenolic Extracts from Different Cocoa Sources
  7. [7]E. Chin et al. Heritage Science. 2013, 1: 9
    Comparison of antioxidant activity and Flavanol content of cacao beans processed by modern and traditional Mesoamerican methods
  8. [8]B. Albertini et al. J. Agric. Food Chem. 2015, 63, 9946-9953
    Effect of Fermentation and Drying on Cocoa Polyphenols
  9. [9]M. D’Archivio et al. Int. J Mol Sci. 2010, 11(4): 1321-1342
    Bioavailability of the Polyphenols: Status and Controversies
  10. [10]N. Osakabe J Clin Biochem Nutr. 2013,
    Flavan3-ols improve metabolic syndrome risk factors: evidence and mechanisms
  11. [11] A. Serra et al. Eur J Nutr. 2013, 52(3): 1029-38
    Distribution of procyanidins and their metabolites in rat plasma and tissues in relation to ingestion of procyanidin-enriched or procyanidin-rich cocoa creams
  12. [12]MM.Abd El Mohsen et al. Free Radic Biol Med. 2002, 33: 1693-702.
    Uptake and metabolism of epicatechin and its access to the brain after oral ingestion.
  13. [13]S. Stoupi et al. Mol Nutr. Food Res. 2010, 54(6): 747-759
    A comparison of the in vitro biotransformation of (-)-epicatechin and procyanidin B2 by human faecal microbiota
  14. [14]FP. Martin et al. J Proteome Res 2012, 11: 6252-63.
    Specific dietary preferences are linked to differing gut microbial metabolic activity in response to dark chocolate intake.
  15. [15]F. Cardona et al. J Nutr Biochem. 2013, 24(8): 1415-1422
    Benefits of polyphenols on gut microbiota and implications in human health
  16. [16]M. Moore, Mfamara Goita, Dr. John W. Finley The 247th National Meeting & Exposition of the American Chemical Society (ACS) Dallas, March 18, 2014-(Department of Nutrition and Food Science Louisiana State University)
    Impact of the Microbiome on Cocoa Polyphenolic Compounds
  17. [17]J. B. Blumberg et al. Adv. Nutr. 2014, 5(5): 547-549
    The Science of Cocoa Flavanols: Bioavailability, Emerging Evidence, and Proposed Mechanisms
  18. [18]T. Cifuentes-Gomez et al. J Agric. Food Chem. 2015, 63(35): 7615-7623
    Factors affecting the absorption, metabolism, and excretion of Cocoa flavanols in Humans
  19. [19]J. Ottaviani et al. Sci Rep 2016, 6: 29034
    The metabolome of [2-(14) C] (-)-epicatechin in humans: implications for the assessment of efficacy, safety, and mechanisms of action of polyphenolic bioactives.
  20. [20]KM. Strat et al. J Nutr. Biochem, 2016, 35: 1-21
    Mechanisms by which cocoa flavanols improve metabolic syndrome and related disorders