Q6 「カカオポリフェノール」は1日にどれくらい摂れば、健康によいのですか?
カカオポリフェノールに生活習慣病の改善などの健康効果があることは認められていますが、健常人のカカオポリフェノール摂取量の推奨量は決めかねます。しかし、最近になって600 mg程度のカカオポリフェノール(日本の公定法)を摂取した試験で血圧に良い結果が出たとの報告があります(大澤俊彦 第20回チョコレート・ココア国際栄養シンポジウム2015年)。これまでの知見を参考にしてください。
現在のところ、この問いに明確に答えることはできないですが、適正な摂取量に影響を与えるカカオポリフェノールの測定法、欧州食品安全機関によるヘルスクレームの認可、蒲郡市民によるチョコレートの摂取の調査研究について述べます。
1 カカオポリフェノール測定法とフラバノール測定法
カカオポリフェノール量の測定については、日本では1999年から、エピカテキンを標準物質とするFolin-Ciocalteu 法(フォーリン・チオカルト法:フォーリン試薬がフェノール性水酸基により還元されて呈色するのを利用した比色定量法)によるカカオポリフェノール測定法[1]が定められています。カカオポリフェノールはQ2.で述べましたように幾種類かの化合物が混合したものであり、包括的にこの測定法でポリフェノール全体の量をとらえることでいいと思います。しかしながら、2013年にAOAC Internationalでチョコレート、カカオマス、ココアパウダー、カカオ抽出物のフラバノール及び重合度が1~10までのプロシアニジンの含量をHPLCにて求める測定法[2]が決められ、欧米ではカカオポリフェノールの測定にはこの方法が使われるようになりました。ポリフェノール測定法とフラバノール(プロシアニジンを含む)測定法は測定原理が違うことから、完全に比例するわけではないのですが、Q4.に述べた10 gの純ココア、ダークチョコレートのフラバノールを測定しますと約40 mgとなります。フラバノール200 mgは純ココア、ダークチョコで50 g程度となります。
2 欧州食品安全機関(EFSA*1)によるヘルスクレームの認可
ヨーロッパのチョコレートメーカーが、カカオポリフェノール(カカオフラバノール)を1日に200 mg摂取すると、正常な血液循環に役立つことを示す証拠(血管を弛緩させる一酸化窒素の発生を促すことにより、血圧を低下させ、血流を改善、心臓疾患のリスクを低める働きがある)を欧州食品安全機関(EFSA)に提出[3]しました。
その結果、2013年、申請したメーカーの高フラバノールココアパウダーや高フラバノールダークチョコレートにヘルスクレーム(Cocoa flavanols help maintain endothelium-dependent vasodilation which contributes to normal blood flow)を記載することが認められ、製品も販売されています。効果を得るためには200 mgのカカオフラバノールを毎日摂取すべきであるとしています。この200 mgにはエピカテキンが46 mg含まれています。他の研究者の報告では、フラバノール200 mgでは効果がなく、エピカテキンを100 mgを推奨しています[4]。
3 蒲郡市民による「チョコレートの摂取による健康効果の調査研究」
2014年6月、大澤らにより愛知県蒲郡市でアジア系の人種に限定した「チョコレートの摂取による健康効果に関する研究」が行われ、市民347名(45~69歳の男性123名、女性224名)を対象として、4週間、1日に、5 gのカカオ分72 %のチョコレートを5枚(150 kcal)摂取してもらった結果を分析したところ、血圧の低下が認められたが、体重やBMIなどに影響はなかった。また、脳由来神経栄養因子(BDNF)が上昇したことから心血管のみならず、認知症予防の可能性も認められた、と報告されています。摂取したダークチョコレートには、総ポリフェノール約600 mgが含まれていると報告されています。(第20回チョコレート・ココア国際栄養シンポジウム)
カカオポリフェノールに生活習慣病の改善などの健康効果があることは認知されたのですが、健常人の摂取量はどれほどがいいかになりますと、いままでの研究報告にあります対象とする年齢の違い、健常者か罹患(疾患の種類)者か、性別(女性の場合は妊娠中・閉経後等も考慮)、遺伝子など対象者の違い以外に、摂取量の表し方やテオブロミンやカフェインとの相乗効果の有無の問題もあり、欧米諸国でも結論が出るのに時間がかかりそうですし、日本の場合も例が少なく決めかねます。今のところ、上記の海外・日本の例を参考にしていただけたらと考えます。
チョコレート・ココア国際栄養シンポジウムでの関連発表
- 大澤俊彦「高カカオチョコレート摂取による健康効果」
第20回チョコレート・ココア国際栄養シンポジウム(2015)
引用文献
- [1]「チョコレートの表示(第8版)」別紙P162 平成23年9月 全国チョコレート業公正取引協議会
- [2]RJ. Robbins et al. J AOAC Int. 2013, 96(4): 705
Flavanol and Procyanidin Content (by Dgree of Polymerization 1-10) of Chocolate, Cocoa Liquors, Cocoa Powders, and Cocoa Extracts: First Action 2012. 24 - [3]Europian Food Safty Authority (EFSA) Journal 2012, 10(7): 2809
Scientific Opinion on the substantiation of a health claim related to cocoa flavanols and maintenance of normal endothelium-dependent vasodilation pursuant to Article 13(5) of Regulation (EC) No1924/2006 - [4]J. Vlachojannis et al. Phytother Res. 2016, Oct; 30(10): 1641-1657.
The impact of Cocoa Flavanols on Cardiovascular Health