Q10 チョコレート・ココアの研究が日本をはじめ世界中で進んでいると聞きますが、これまでにどんなことがわかっていますか?

5 がんの予防(Cancer Prevention)

がんの発生の原因は活性酸素が細胞のDNAなどに触れて傷つけることだと言われています。ポリフェノールの中には、がん予防に良いと言われているものもありますが、カカオポリフェノールのがん予防効果はまだはっきりとわかっていません。

代表的な介入研究

A. Spadafranca et al.(2010)[1]
項 目 詳 細
被験者 被験者数:健常人男女20名(男性10名 女性10名)
年齢:24.2 ± 0.7歳
試験デザイン 並行群間比較試験
試験食品 (1)ダークチョコレート 45 g
(2)ホワイトチョコレート 45 g
含 量 (1)ポリフェノール 860 mg(内エピカテキン58 mg含有)
(2)ポリフェノール 5 mg(エピカテキン未検出)
摂取期間 2週間摂取(4週間バランス食を摂取し、後半2週間に試験食品を摂取)
結 果 血液を0日目、14日目と27日目の試験食品摂取前、摂取2時間後、22時間後に採取しました。
単核球細胞のDNA損傷は、14日目と27日目のダークチョコレート摂取2時間後で、ホワイトチョコレート群と比較して有意に低くなりました。血漿総抗酸化活性には、群間差は認められませんでした。

代表的なIn vitro試験

  • S. Carnesecch et al. (2002)[2]

ココアパウダーや、フラバノール量や関連するプロシアニジン量の異なるココア抽出物の、Caco-2細胞の増殖に与える影響を評価した。50 μg/mLのプロシアニジンが豊富に含まれる抽出物(PE)で処理すると、G2/M期をブロックすることで、70 %の増殖が抑制された。PEはポリアミン生合成に重要な2つの酵素(オルニチン脱炭酸酵素、S-アデノシルメチオニン脱炭酸酵素)の活性を有意に低下させた。これにより、細胞内のポリアミンの蓄積が減少した。これらの結果から、カカオポリフェノールの抗増殖効果の重要なターゲットは、ポリアミン代謝であるかもしれないと示唆された。

  • D. Ramljak et al. (2005)[3]

天然に存在するカカオ由来の五量体プロシアニジン(ペンタマー)は、未知の分子機構により、ヒト乳がん細胞におけるG0/G1細胞周期停止を引き起こすことがすでに示されている。本研究では、このペンタマーが、ヒト乳がん細胞(MDA MB-231、MDA MB-436、MDA MB-468、SKBR-3、およびMCF-7)とベンゾ(a)ピレン不死化細胞184A1N4、184B5の増殖を選択的に阻害し、初代培養の正常ヒト乳房上皮細胞や自然発生した不死化MCF-10A細胞の増殖には影響を与ええないことを証明した。このペンタマーへの異なる応答がミトコンドリア膜の脱分極を関連するのかを評価したところ、ペンタマーはMDA MB231細胞ではミトコンドリア膜の顕著な脱分極を引き起こしたが、正常なMCF-10A細胞では引き起こさなかった。一方その他の正常細胞や腫瘍細胞でが、はっきりとした結果は得られなかった。本研究の結果は、五量体プロシアニジンが乳がん細胞の増殖を選択的に抑制することを示し、この化合物による細胞増殖阻害が、細胞周期調節タンパク質の部位特異的脱リン酸化あるいは下方制御に関連することを示唆した。

  • C. Oleaga et al. (2012) [4]

カカオフラボノイドの乳がん細胞への影響を分子レベルで解析するために、カカオポリフェノール抽出物(PCE)処理したMCF-7細胞とSKBR3細胞株を機能的ゲノム解析した。PCE処理した場合、MCF-7細胞では7遺伝子が過剰発現、1遺伝子が低発現した。SKBR3細胞では9遺伝子が過剰発現した。両細胞で発現量が変化した遺伝子のうち、CYP1A1(cytochrome P450, family1, subfamilyA, polypeptide1)について、さらなる解析を行った。CYP1A1のmRNA量やタンパク質量、酵素活性は、PCE処理により増加した。またPCE処理によるCYP1A1転写活性化は、MCF-7細胞におけるCYP1A1プロモーター内のXREエレメントへのAhR結合を介して生じていた。PCEとタモキシフェンの併用は、両細胞系において相乗的な細胞毒性を引き起こし、MCF-7細胞におけるアポトーシスの増加を促した。

代表的な総説

  • Maskarinec (2009)[5]
  • Y. Ranneh et al. (2013)[6]
  • MA. Martin et al. (2013)[7]

動物研究では、カカオとその主要なフェノール成分が、前立腺がん、肝臓がん、結腸がん、白血病がんなどの様々な種類のがんの開始進行を防ぐ、あるいは遅らせることが実証されている。さらにいくつかのヒト介入研究により、抗酸化物質の状態を表すバイオマーカーが、好ましく変化することが報告されている。しかし、in vitroの観察結果を、動物のがんモデルやヒトといったin vivoに外挿するには注意が必要である。カカオ産生物は、作用の分子機構が完全に解明されているわけではないので、さらなる調査が必要である。加えて、カカオの可能性を十分に評価するためには、最適な用量や投与方法、がん標的に関して、より広範で十分に管理された臨床試験が必要である。全体として、これまでの研究により、通常の食事からの摂取と併せて、ココアやチョコレートから少量のフラバノールやプロシアニジンを毎日摂取することが、がん予防を含めた個々の健康状態を自然療法的に改善することが示唆されている。

チョコレート・ココア国際栄養シンポジウムでの関連発表

引用文献

  1. [1]A. Spadafranca et al. Br J Nutr. 2010, 103(7): 1008-14
    Effect of dark chocolate on plasma epicatechin levels, DNA resistance to oxidative stress and total antioxidant activity in healthy subjects.
  2. [2]S. Carnesecchi et al. Cancer Lett. 2002, 175: 147-55
    Flavanols and procyanidins of cocoa and chocolate inhibit growth and polyamine biosynthesis of human colonic cancer cells.
  3. [3]D. Ramljak et al. Mol Cancer Ther. 2005, 4(4): 537-546
    Pentameric procyanidin from Theobroma cacao selectively inhibits growth of human breast cancer cells
  4. [4]C. Oleaga.et al. Eur J Nutr. 2012, 51: 465-476
    CYP1A1 Is overexpressed upon incubation of breast cancer cells with a polyphenolic cocoa extract
  5. [5]G. Maskarinec. Nutrition and cancer. 2009, 61 (5): 573-579.
    Cancer protective properties of cocoa: a review of the epidemiologic evidence
  6. [6]Y. Ranneh et al. J Nutr. Food Sci. 2013, 3(193): 2
    The protective effect of cocoa (Theobroma cacao L.) in colon cancer
  7. [7]MA. Martin et al. Food Chem Toxico. 2013, 56: 336-351
    Potential for preventive effects of cocoa and cocoa polyphenols in cancer