Q10 チョコレート・ココアの研究が日本をはじめ世界中で進んでいると聞きますが、これまでにどんなことがわかっていますか?

1 心・脳血管疾患:Cardiovascular disease・Cerebrovascular disease
心不全(heart failure)、心筋梗塞(myocardinal infarction)、脳卒中(stroke)

心・脳血管疾患とは、動脈にコレステロールや中性脂肪などが蓄積し、硬くなることで弾力性や柔軟性を失い血圧が上昇して高血圧になります。また、スムーズに血液が流れなくなることで、最終的には動脈の血流が遮断されて、酸素・栄養が重要組織に到達できなくなるため、冠動脈では、心筋梗塞、脳の血管であれば、脳梗塞などを引き起こす可能性がある疾患です。ここでは、それらの疾患の危険因子へのチョコレートやココアの効果を初期の介入試験からメタ解析の結果までを示します。

コレステロール:Cholesterol(serum lipids, lipid profile)

カカオ製品を摂取することで、血清脂質が改善すると報告されています。ポリフェノールの摂取量が多いほどその効果が認められることからカカオポリフェノールによる効果であると考えられます。

代表的な介入研究

S. Baba et al. (2007)[9]
項 目 詳 細
被験者 被験者数:健常人160名(男性69名 女性91名)
年齢:49 ± 9歳
BMI:24.2 ± 3.5 kg/m2
試験デザイン 二重盲検並行群間比較試験
試験食品 (1)ココア 26 g
(2)低濃度ポリフェノールココア 26 g
(3)中濃度ポリフェノールココア 26 g
(4)高濃度ポリフェノールココア 26 g
含 量 ポリフェノール量(カテキン、エピカテキン、プロシアニジンB2、プロシアニジンC1、シンナムタンニンA2)
(1)微量
(2)140.9 mg/日
(3)211.2 mg/日
(4)281.5 mg/日
摂取期間 4週間
結 果 摂取前後の比較では、すべての群において血清HDLコレステロール値の有意な上昇(P < 0.05)、(3)(4)ではApo Bタンパクの有意な増加(P < 0.05)、(2)(3)(4)では血清酸化LDL値の有意な低下(P < 0.05)が認められました。
摂取開始前の血清LDLコレステロール値が3.23 mmol/L以上の被験者における解析では、摂取前後の比較において、(2)(3)(4)で血清LDLコレステロール値及び血清酸化LDL値の有意な低下(P < 0.05)、血清HDLコレステロール値及びApo Bタンパクの有意な増加(P < 0.05)が認められました。
S. Baba et al.(2007)[10]
項 目 詳 細
被験者 被験者数:健常人25名(男性25名 女性0名)
年齢:38 ± 1歳
BMI:22.1 ± 0.2 kg/m2
試験デザイン 無作為化並行群間比較試験
試験食品 (1)砂糖 12 g
(2)ココアパウダー 26 g + 砂糖12 g
含 量 カテキン、エピカテキン、プロシアニジンB2、プロシアニジンC1
(1)0 mg
(2)199 mg/日
摂取期間 12週間
結 果 摂取前と比較し、ココアパウダー摂取群(2)では血清HDLコレステロール値の有意な増加(P < 0.001)が認められました。
J. Mursu et al.(2004)[11]
項 目 詳 細
被験者 被験者数:非喫煙の健常人45名(男性12名 女性33名)
年齢:19~49歳
BMI:(1) 22.2 ± 2.3 kg/m2 (2) 21.5 ± 2.9 kg/m2 (3) 24.1 ± 3.5 kg/m2
試験デザイン 非無作為化並行群間比較試験
試験食品 (1)ホワイトチョコレート75 g
(2)ダークチョコレート75 g
(3)高濃度ポリフェノールダークチョコレート75 g
含 量 チョコレートポリフェノール
(1)1 mg未満
(2)274 mg/日
(3)418 mg/日
摂取期間 3週間
結 果 摂取前と比較し、(2)(3)では血清HDLコレステロール値の有意な増加(P = 0.012)が認められました。
L. Di Renzo et al.(2013)[12]
項 目 詳 細
被験者 被験者数:健常イタリア女性(白人)20名
最終評価15名
年齢:32.28 ± 4.03歳
BMI:22.92 ± 1.89
試験デザイン 摂取前後比較試験
試験食品 ダークチョコレート(70 % カカオ分)100 g
含 量 (1)ポリフェノール 2 %
(2)カテキン類
(3)カテキン 444 mg/kg エピカテキン 998 mg/kg
摂取期間 ダークチョコレート非摂取期間7日間後にダークチョコレートを7日間摂取
結 果 ダークチョコレートを摂取すると
(1)HDLコレステロール有意に上昇
(2)LDL/HDLコレステロール比が有意に低下
(3)インターロイキン-1受容体アンタゴニスト有意に低下
インターロイキン1受容体アンタゴニストと動脈硬化指数に有意な相関性が認められました。
HDLコレステロールの上昇ならびに炎症マーカーに関する数値が改善していることから動脈硬化を抑制する可能性があると考えられました。

代表的なメタ解析

  • L. Jia et al. (2010) [13]: 8件の研究のメタ解析
  • OA. Tokede et al. (2011) [14]: 10件の研究のメタ解析
  • MG. Shrime et al. (2011) [15]: 24件の研究のメタ解析

Shrimeらのメタ解析のよると、フラボノイドを多く含むココアの摂取はLDLコレステロール値の有意な低下とHDLコレステロール値の有意な増加をもたらしますが、総コレステロール値は変化しませんでした。Tokedaらのメタ解析によると、ダークチョコレートやココアの摂取はLDLコレステロール値および総コレステロール値の有意な低下をもたらしますが、HDLコレステロール値については有意な変化を認められませんでした。Jiaらのメタ解析によると、ココアの摂取はLDLコレステロール値の有意な低下と、総コレステロール値の低下傾向が認められましたが、その変化は摂取量と被験者の健康状態により変化し、LDLコレステロール値の低下効果は、摂取量が少なく、心血管疾患リスクを保有する被験者においてのみ認められました。また、HDLコレステロールについては、有意な変化はありませんでした。以上をまとめると、チョコレートやココアの摂取は限定的ではありますがLDLコレステロールを下げる効果があり、心血管疾患リスクの低減に寄与する可能性があると考えられます。

代表的なメカニズム解明研究

  • A. Yasuda et al. (2011) [16]: in vitro研究

カカオポリフェノールがどのようにしてコレステロール代謝に影響しているのか明らかにすることを目的に、HepG2細胞、Caco2細胞にカカオポリフェノール成分を添加しHDL粒子の主要タンパクであるApoA1及びLDLのコアタンパクであるApoB2のタンパクレベル、mRNA発現量の変化を確認しました。次いで、LDLレセプター活性、ステロール調節エレメント結合タンパク(SREBP1及び2)への影響を確認しました。その結果、カカオポリフェノールは、ApoA1レベルの上昇、ApoBレベルの低下をもたらすことが分かりました。また、LDL受容体の活性化及び、SREBP1及び2を増加させることが分かりました。
SREBPがLDL受容体遺伝子のプロモーター領域に結合することでLDL受容体が活性化し、LDLの細胞への取り込みが促進されます。カカオポリフェノールはSREBP量を増加させることでLDL受容体を活性化し、ApoA1レベルの上昇、ApoBレベルの低下をもたらし、これらによって、コレステロール代謝を制御していると考えられます。

引用文献

  1. [9]S. Baba et al. J Nutr. 2007, 137: 1436-41
    Plasma LDL and HDL cholesterol and oxidized LDL concentrations are altered in normo- and hypercholesterolemic humans after intake of different levels of cocoa powder
  2. [10]S. Baba et al. Am J Clin Nutr. 2007, 85: 709-717
    Continuous intake of polyphenolic compounds containing cocoa powder reduces LDL oxidative susceptibility and has beneficial effects on plasma HDL-cholesterol concentrations in humans
  3. [11]J. Mursu et al. Free Radic Biol Med. 2004, 37: 1351-1359
  4. [12]L. Di Renzo et al. Eur Rev Med Pharmacol Sci. 2013, Aug; 17(16): 2257-2266.
    Effects of dark chocolate in a population of normal weight obese women: a pilot study.
  5. [13]L. Jia et al. Am J Clin Nutr. 2010, 92(1): 218-25
    Short-term effect of cocoa product consuption on lipid profile: a meta-analysis of randomized controlled trials.
  6. [14]OA. Tokede et al. J Clin Nutr. 2011, 65: 879-886
    Systematic Review Effects of cocoa products/dark chocolate on serum lipids: a meta-analysis
  7. [15]M. G. Shrime et al. J. Nutr. 2011, 141: 1982-8
    Flavonoid-rich cocoa consumption affects multiple cardiovascular risk factors in a meta-analysis of short-term studies
  8. [16]A. Yasuda et al. J Agric Food Chem. 2011, 59(4): 1470-76
    Cacao polyphenols influence the regulation of apolipoprotein in HepG2 and Caco2 cells.