Q10 チョコレート・ココアの研究が日本をはじめ世界中で進んでいると聞きますが、これまでにどんなことがわかっていますか?
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心・脳血管疾患:Cardiovascular disease・Cerebrovascular disease
心不全(heart failure)、心筋梗塞(myocardinal infarction)、脳卒中(stroke)
心・脳血管疾患とは、動脈にコレステロールや中性脂肪などが蓄積し、硬くなることで弾力性や柔軟性を失い血圧が上昇して高血圧になります。また、スムーズに血液が流れなくなることで、最終的には動脈の血流が遮断されて、酸素・栄養が重要組織に到達できなくなるため、冠動脈では、心筋梗塞、脳の血管であれば、脳梗塞などを引き起こす可能性がある疾患です。ここでは、それらの疾患の危険因子へのチョコレートやココアの効果を初期の介入試験からメタ解析の結果までを示します。
血小板機能( Platelet Function )
血小板凝集能が亢進すると、血液の粘度が高まり、主に細い動脈の血行が阻害されます。
高血圧症、高脂血症では、太い動脈に動脈硬化をきたしますが、血小板凝集能亢進症では、主に細小動脈の動脈硬化をきたします。
カカオ製品を摂取することで、血小板凝集能が低下することが報告されています。カカオ製品摂取が動脈硬化予防へとつながる可能性が示されています。
代表的な介入研究
ダークチョコレートを摂ることで、血小板凝集が抑制されるといった健康にとって好ましい効果をもたらします。
AJ. Innes et al.(2003)[27]
引用文献
- [27]AJ. Innes et al. Platelets, 2003, 14: 325-7
Dark chocolate inhibits platelet aggregation in healthy volunteers
項 目 | 詳 細 |
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被験者 | 被験者数:健常者30名(男性7名 女性3名)х 3グループ (1)20~54歳(平均29.6歳) (2)20~56歳(平均30.9歳) (3)20~58歳(平均31.5歳) |
試験デザイン | 無作為化単盲検比較試験 |
試験食品 | (1)ダークチョコレート100 g(カカオ75 %) (2)ミルクチョコレート100 g(カカオ20 %) (3)ホワイトチョコレート100 g |
含 量 | ポリフェノールの分析値記載なし |
摂取期間 | 単回 |
結 果 | コラーゲンによって引き起こされる血小板凝集能に関して、(1)は有意な減少がみられました(P = 0.028)。一方で、(2)では減少傾向はみられたものの有意差はみられず、(3)において特徴的な結果は確認されませんでした。 |
KJ. Murphy et al.(2003)[28]
引用文献
- [28]KJ. Murphy et al. Am J Clin Nutr. 2003, 77: 1466-1473.
Dietary flavanols and procyanidin oligomers from cocoa (Theobroma cacao) inhibit platelet function.
項 目 | 詳 細 |
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被験者 | 被験者数:健常者32名(男性17名 女性15名) |
試験デザイン | 無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験 |
試験食品 | (1)ココアタブレット (2)プラセボタブレット |
含 量 | (1)ココアフラバノールとプロシアニジン 234 mg/日 (2)ココアフラバノールとプロシアニジン ≦ 6 mg/日 |
摂取期間 | 28日間 |
結 果 | 血中のエピカテキン、カテキン濃度は(2)に対して(1)では有意に上昇しました(エピカテキン:P = 0.006、カテキン:P = 0.005)。血小板の個数は(2)に対して(1)では有意に増加し(P = 0.0001)、血小板の容積は有意に減少しました(P = 0.004)。 コラーゲンやADPによって引き起こされる血小板凝固は(2)に対して(1)で有意に抑制されました(コラーゲン要因:P = 0.031、ADP要因:P = 0.042)。 コラーゲンによって引き起こされるATP放出は摂取前と比べて(1)で有意に減少しました(P = 0.006)。 P-selectin 活性は摂取前と比べて(1)で有意に減少しており(3 μmol ADP/L使用時:P = 0.06、10 μmol ADP/L使用時:P = 0.036)、さらに(2)と比較しても有意に低くなっていました(P = 0.008)。 血中アスコルビン酸濃度は(2)と比較して(1)で有意に高くなっていました(P = 0.04)。 血中尿素濃度は(1)と比べて(2)で有意に低くなっていました(P = 0.006)。 |
F. Hermann et al.(2006)[29]
引用文献
- [29]F. Hermann et al. Heart. 2006, 92: 119-120.
Dark chocolate improves endothelial and platelet function.
項 目 | 詳 細 |
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被験者 | 被験者数:喫煙者20名(男性20名) |
試験デザイン | 無作為化並行群間比較試験 |
試験食品 | (1)ダークチョコレート40 g(74 %カカオ分) (2)ホワイトチョコレート40 g(4 %カカオ分) |
含 量 | ポリフェノールの分析値記載なし |
摂取期間 | 単回 |
結 果 | ダークチョコレート摂取群(1)では摂取2時間後において摂取前と比較して血小板接着能が有意に減少しました(P = 0.03)。 |
AJ. Flammer et al.(2007)[30]
引用文献
- [30]AJ. Flammer et al. Circulation. 2007, 116: 2376-2382.
Dark chocolate improves coronary vasomotion and reduces platelet reactivity.
項 目 | 詳 細 |
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被験者 | 被験者数:心臓移植患者22名(男性18名 女性4名) |
試験デザイン | 無作為化二重盲検対照比較試験 |
試験食品 | (1)ダークチョコレート40 g(70 %カカオ分) (2)コントロールチョコレート40 g |
含 量 | (1)総ポリフェノール 15.8 mg/g、カテキン 0.27 mg/g、エピカテキン 0.9 mg/g (2)フラボノイドフリー |
摂取期間 | 単回 |
結 果 | ダークチョコレート摂取群(1)では摂取2時間後において摂取前と比較して冠状動脈の直径が有意に拡張していました(P < 0.01)。 血管内皮に由来する冠状動脈の血管運動はコントロールチョコレート摂取群(2)と比較して(1)で有意に改善されました(P = 0.018)。 血清中のエピカテキン濃度は(2)と比較して(1)で有意に上昇しており(P < 0.001)、冠状動脈の血管運動との相関がみられました(r = 0.46, P = 0.04)。 血管収縮による酸化ストレスのマーカー(8-iso-PGF2α)の濃度は(2)と比較して(1)で有意に減少していました(P = 0.029)。 |
LM. Ostertag et al.(2013)[31]
引用文献
- [31]LM. Ostertag et al. Mol Nutr Food Res. 2013, 57(2): 191-202
Flavan-3-ol-enriched dark chocolate and white chocolate improve acute measures of platelet function in a gender-specific way- a randomized-controlled human intervention trial
項 目 | 詳 細 |
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被験者 | 被験者数:健常者42名(男性26名 女性16名) 年齢:41 ± 2.0歳 BMI:24.5 ± 0.41 |
試験デザイン | 観察者盲検無作為化対照比較試験 6グループが以下順番で被験食品を摂取する G1:(1)→(2)→(3), G2:(1)→(3)→(2) G3:(3)→(1)→(2), G4:(3)→(2)→(1) G5:(2)→(3)→(1), G6:(2)→(1)→(3) |
試験食品 | (1)高濃度フラバン-3-オールダークチョコレート60 g (2)ダークチョコレート60 g (3)ホワイトチョコレート60 g |
含 量 |
60 g チョコレート中 エピカテキン カテキン 2量体 B2 3量体 4量体 5量体 総フラボノイド量 |
摂取時間 | 単回(ウォッシュアウト期間:14日以上) |
結 果 | 血小板凝集能について 5 μmol/L ADP 誘導時は以下の通りになりました。 摂取2時間後では、(1)、(2)摂食群の男性において(3)摂食群と比べて有意に血小板凝集能の低下がみられました((1)対(3):P = 0.008、(2)対(3):P = 0.020)。 摂取6時間後では、(1)摂食群の男性において、(3)摂食群の男性と比べて有意に血小板凝集能の低下がみられました(P = 0.334)。 8 μmol/L ADP 誘導時は以下の通りになりました。摂取2時間後では、(1)、(2)摂食群の男性において、(3)摂食群と比べて有意に血小板凝集能の低下がみられました(P = 0.010)が、6時間後には有意な差はみられませんでした。 20 μmol/L TRAP 誘導時は以下の通りになりました。摂取2時間後では、(1)摂食群の女性において、(3)摂食群と比べて有意に血小板凝集能の低下がみられました(P = 0.010)が、6時間後には有意な差はみられませんでした。 血中の総カテキン量(アグリコン換算)は(1)や(2)摂食2時間後において、有意に上昇しました(P < 0.001)。 尿中の総カテキン量は(1)や(2)摂食2時間後、6時間後において、有意に上昇しました(P < 0.001)。 (性別による影響はありますが)ダークチョコレートの中のフラバン-3-オール(場合によってはホワイトチョコレート中の成分)は血小板の機能の改善に寄与するかもしれません。 |
引用文献
- [27]AJ. Innes et al. Platelets, 2003, 14: 325-7
Dark chocolate inhibits platelet aggregation in healthy volunteers - [28]KJ. Murphy et al. Am J Clin Nutr. 2003, 77: 1466-1473.
Dietary flavanols and procyanidin oligomers from cocoa (Theobroma cacao) inhibit platelet function. - [29]F. Hermann et al. Heart. 2006, 92: 119-120.
Dark chocolate improves endothelial and platelet function. - [30]AJ. Flammer et al. Circulation. 2007, 116: 2376-2382.
Dark chocolate improves coronary vasomotion and reduces platelet reactivity. - [31]LM. Ostertag et al. Mol Nutr Food Res. 2013, 57(2): 191-202
Flavan-3-ol-enriched dark chocolate and white chocolate improve acute measures of platelet function in a gender-specific way- a randomized-controlled human intervention trial